●「検証動かぬ基地 vol.108 「辺野古案」アメリカの有識者はこう見る」QABステーションQ、2012年4月17日。
取材も秀逸だし、キャスターによる末尾のまとめのところが分かり易い。
「辺野古への移設について、クレモンス氏は「不可能」。オハンロン氏とモチヅキ教授は「撤退・後方展開」。バンドウ氏は「全基地撤退」。そしてスナイプ弁護士は「反対」。こうして見ると、もはや辺野古にこだわっているのは日米両政府だけなのではないか、という構図が見えてきます。アメリカ国内では財政上の問題が一番の理由ではありますが、「普天間は辺野古へ」という図式が、亡霊のように彷徨っているだけ、という印象です。」
「不可能」と言ったとまとめられているスティーブ・クレモンス(アトランティック・主任編集員)は、チャルマーズ・ジョンソンの薫陶を受けた人という感じかなぁ。大田知事時代に、日本政府の基地とリンクした振興策を批判した人。この「不可能」は、仲井真知事がよく言う「不可能」とは意味がぜんぜん違うと読むべき。でも、日本政府と米国のジャパン・ハンドに対して手厳しいのであって、沖縄住民の味方とか、そういうのは文脈に依存するかなと思う。
「撤退・後方展開」と言ったふたりは、ナルホドね。
マイケル・オハンロン(ブルッキングス研究所・上級研究員)
マイク・モチヅキ(ジョージワシントン大学教授)
かれらが現ジャパン・ハンド(で、後述するように「オキナワ・ハンド」)。こちらのほうがむしろ仲井真知事の「辺野古は無理」の内心を正確に言い表しているんじゃないかと思う。
「えー、もう、全部撤収じゃー」と言ったのは、ダグ・バンドウ(ケイトー研究所・上級研究員)=共和党保守系シンクタンクの人。当然だけれど、沖縄の反基地運動の精神とは全く無関係。大統領選挙との絡みで、こういう見解になる。
「反対」と言ったのは、ビル・スナイプ(生物多様性センター・弁護士・原告)。つまりジュゴン裁判の米国側原告。辺野古の基地反対運動にもっとも近い位置から発言したということ。
さて、このニュースを踏まえて先日の記事「主体的な安全保障?」に関連して続き。
たまたまだけれども同じ日に、別々のソースだけれど関心を共有する内容が配信された。
●ガバン・マコーマック、乗松聡子「沖縄についての『誤解』:沖縄県『地域安全政策課』主任研究員の米国シンクタンク寄稿文について」Peace Philosophy Center blog 2012年4月17日。
問題の寄稿文はCSIS (Center for Strategic and International Studies)(国際学・戦略研究センター)のPacific Forum(太平洋会議、在ハワイイ)が出しているニューズレターPacNetに掲載されたもの。
Yukie Yoshikawa, "Misunderstandings on the US Military Bases in Okinawa," PacNet no.24A, April 5, 2012.
寄稿文を書いた著者の吉川由紀枝さんという人は・・・
3月まで(?)ライシャワー東アジア研究センターのシニア・リサーチフェロー(The Edwin O. Reischauer Center for East Asian Studies)(ジョンズホプキンズ大の国際関係論の大学院SAISの研究センター、所長は『日米同盟の静かなる危機』の著者ケント・カルダー氏)で、
「日本ソフトパワー研究所」なるサイトで協力者として登録されており(この日本ソフトパワー研究所は、ジョセフ・ナイの「ソフトパワー」論を日本で実践しようということらしくて、ナイ=アーミティッジ・レポートの翻訳なども紹介されてた)、
「開国ジャパン」なるサイトの「開国アンバサダー」なのだそうで、いくつか寄稿している人。このサイトは、なんだか説明できない「国際人」とか「グローバルなんとか」とか言ってはしゃいだような気持ちになる国民論の、痛い大衆的表出、という感じ。
ググって見つけた情報から構成するとこのような人物理解になる。「関心空間」とか「あの人検索スパイシー」みたいに、現実の人物像との大いなるギャップもあろうかと思うケド。大学卒業後、外資系コンサル業→学位取ってステップアップ目指す→コロンビアの公共政策大学院→サイスのライシャワー・センターでケント・カルダーに師事→日米関係で、英語で発言する若手→沖縄県庁の研究員!?という、最後の流れがビックリな気がするとしても、これから現場で活躍しようと意気込んで来沖した人なのだと思う。でも、沖縄についての現実的で等身大の実感的な理解がどれほどあるのか。4月に着任して間もないわけだから、無理はない、これからの人。でも、そうならばなぜ、4月の着任早々にこんな文書を、米国シンクタンクに、それもCSISに投稿したのか。嘆息。
マコーマック&乗松コメントやこれまでの報道によれば、沖縄県庁「地域安全政策課」は、アドヴァイザーとして、マイク・モチヅキ、マイケル・オハンロン、シーラ・スミス、ケント・カルダー、高良倉吉などの名前を挙げていて、おっとっと。これはあれだね「沖縄クエスチョーン」な顔ぶれ。ということは「沖縄イニシアティヴ」の流れを汲みつつ、ジャパン・ハンドラーで固めた観あり。
さて、寄稿文については、マコーマック&乗松が論点を整理してくれているのでとても有り難い。読みやすい文章だし、末尾のコメント欄も含めてサイトに当たってほしいけど、パパっと整理すると、
1)の見解はまさに「沖縄イニシアティヴ」とケント・カルダー色に彩られているということ。
2)が最も重要な点だと強調しておきたい。仲井真県政は、たまたま現在の辺野古案に対する態度だけで評価されているようだけれど。高江ヘリパッド建設の見直しをする姿勢が全く見られないことを常に念頭に置いて批評する必要がある。矛盾というよりも破綻なのだ。沖縄域内の南北差別構造との指摘は、なるほどそういう見方もあるかもしれない。沖縄の現実を肌身で理解しない国際関係論畑の若手研究員に書かせちゃったから、意図せずして露出してしまったのかもね。
5)「フリップフロップ」とは島ゾーリのことなのだ。と関係ないコメント。ペタペタのぺらっぺらってことなんだけど。ブッシュ息子の2期目の大統領選で、共和党が民主党候補を揶揄するために連呼したキャッチコピー。鳩山政権について似たような言論攻撃の真似をしたという感じが、ザワッと来るなぁ。
さて、屋上屋を追加する余地なしだが、蛇足的に指摘するとすれば
-普天間基地の返還は、まったくもって、「サラミ」のスライス程度の返還では、まったくない!なーにがサラミだ!サラミ・テクニックとは気にならない程度の量を掠め取る詐欺の手口に使うもの。否定するためならこのようなレトリックを使っていいという安易さが下品だと思う。メア発言と同じ意匠が施されているということだ。
-オリジナルのCSISサイトで、県民世論の数値を削除した点の訂正が注記されていない。それはどうなのよ。
-3)について、『沖縄タイムス』によれば、嘉手納統合案の論調について修正をするらしい(「嘉手納統合」県主任研究員の論文修正へ『沖縄タイムス』2012年4月14日。)。ところが記事を読むと「反省」したり「申し訳ない」と言っているのは又吉知事公室長だ。イニシアティヴは、著者である吉川さんではなく、なぜ又吉知事公室長なのか。そのようなものが研究の成果のように発表されたのか。吉川さんとしてはどのように受けとめているのか。吉川さんもシンクタンク研究員として、譲り渡してはいけないものがあるだろう。
大きな図式から、県庁当該課のなかでの著者の立場に至るまで、イニシアティヴ、つまり主体性がこれほどまでに危ういテクスト、ということだ。鳴り物入りの沖縄県庁の新組織は、名称を「日米安保課」に変更すべきだし、県民の公的な代表の仮面など付けずに、CSISの沖縄支局として堂々と活動したらいいんじゃないかなと思う。だから、マコーマック&乗松の7)の点については皮肉として読む以外には賛同できない。県庁・県知事を批判できる独立機関では全くないし、県庁内部にビルトインされた米国の政策執行代理店であると見るのが正確なところだろう。
【追記】そしてCSISが国防省の太平洋戦略のお先棒担ぎ機関に、というニュース。あいや〜。
CSIS Tasked by DoD to Conduct Independent Study of Force Posture Positions for Pacific Command Area, April 3, 2012.
取材も秀逸だし、キャスターによる末尾のまとめのところが分かり易い。
「辺野古への移設について、クレモンス氏は「不可能」。オハンロン氏とモチヅキ教授は「撤退・後方展開」。バンドウ氏は「全基地撤退」。そしてスナイプ弁護士は「反対」。こうして見ると、もはや辺野古にこだわっているのは日米両政府だけなのではないか、という構図が見えてきます。アメリカ国内では財政上の問題が一番の理由ではありますが、「普天間は辺野古へ」という図式が、亡霊のように彷徨っているだけ、という印象です。」
「不可能」と言ったとまとめられているスティーブ・クレモンス(アトランティック・主任編集員)は、チャルマーズ・ジョンソンの薫陶を受けた人という感じかなぁ。大田知事時代に、日本政府の基地とリンクした振興策を批判した人。この「不可能」は、仲井真知事がよく言う「不可能」とは意味がぜんぜん違うと読むべき。でも、日本政府と米国のジャパン・ハンドに対して手厳しいのであって、沖縄住民の味方とか、そういうのは文脈に依存するかなと思う。
「撤退・後方展開」と言ったふたりは、ナルホドね。
マイケル・オハンロン(ブルッキングス研究所・上級研究員)
マイク・モチヅキ(ジョージワシントン大学教授)
かれらが現ジャパン・ハンド(で、後述するように「オキナワ・ハンド」)。こちらのほうがむしろ仲井真知事の「辺野古は無理」の内心を正確に言い表しているんじゃないかと思う。
「えー、もう、全部撤収じゃー」と言ったのは、ダグ・バンドウ(ケイトー研究所・上級研究員)=共和党保守系シンクタンクの人。当然だけれど、沖縄の反基地運動の精神とは全く無関係。大統領選挙との絡みで、こういう見解になる。
「反対」と言ったのは、ビル・スナイプ(生物多様性センター・弁護士・原告)。つまりジュゴン裁判の米国側原告。辺野古の基地反対運動にもっとも近い位置から発言したということ。
さて、このニュースを踏まえて先日の記事「主体的な安全保障?」に関連して続き。
たまたまだけれども同じ日に、別々のソースだけれど関心を共有する内容が配信された。
●ガバン・マコーマック、乗松聡子「沖縄についての『誤解』:沖縄県『地域安全政策課』主任研究員の米国シンクタンク寄稿文について」Peace Philosophy Center blog 2012年4月17日。
問題の寄稿文はCSIS (Center for Strategic and International Studies)(国際学・戦略研究センター)のPacific Forum(太平洋会議、在ハワイイ)が出しているニューズレターPacNetに掲載されたもの。
Yukie Yoshikawa, "Misunderstandings on the US Military Bases in Okinawa," PacNet no.24A, April 5, 2012.
寄稿文を書いた著者の吉川由紀枝さんという人は・・・
3月まで(?)ライシャワー東アジア研究センターのシニア・リサーチフェロー(The Edwin O. Reischauer Center for East Asian Studies)(ジョンズホプキンズ大の国際関係論の大学院SAISの研究センター、所長は『日米同盟の静かなる危機』の著者ケント・カルダー氏)で、
「日本ソフトパワー研究所」なるサイトで協力者として登録されており(この日本ソフトパワー研究所は、ジョセフ・ナイの「ソフトパワー」論を日本で実践しようということらしくて、ナイ=アーミティッジ・レポートの翻訳なども紹介されてた)、
「開国ジャパン」なるサイトの「開国アンバサダー」なのだそうで、いくつか寄稿している人。このサイトは、なんだか説明できない「国際人」とか「グローバルなんとか」とか言ってはしゃいだような気持ちになる国民論の、痛い大衆的表出、という感じ。
ググって見つけた情報から構成するとこのような人物理解になる。「関心空間」とか「あの人検索スパイシー」みたいに、現実の人物像との大いなるギャップもあろうかと思うケド。大学卒業後、外資系コンサル業→学位取ってステップアップ目指す→コロンビアの公共政策大学院→サイスのライシャワー・センターでケント・カルダーに師事→日米関係で、英語で発言する若手→沖縄県庁の研究員!?という、最後の流れがビックリな気がするとしても、これから現場で活躍しようと意気込んで来沖した人なのだと思う。でも、沖縄についての現実的で等身大の実感的な理解がどれほどあるのか。4月に着任して間もないわけだから、無理はない、これからの人。でも、そうならばなぜ、4月の着任早々にこんな文書を、米国シンクタンクに、それもCSISに投稿したのか。嘆息。
マコーマック&乗松コメントやこれまでの報道によれば、沖縄県庁「地域安全政策課」は、アドヴァイザーとして、マイク・モチヅキ、マイケル・オハンロン、シーラ・スミス、ケント・カルダー、高良倉吉などの名前を挙げていて、おっとっと。これはあれだね「沖縄クエスチョーン」な顔ぶれ。ということは「沖縄イニシアティヴ」の流れを汲みつつ、ジャパン・ハンドラーで固めた観あり。
さて、寄稿文については、マコーマック&乗松が論点を整理してくれているのでとても有り難い。読みやすい文章だし、末尾のコメント欄も含めてサイトに当たってほしいけど、パパっと整理すると、
1)「沖縄は米軍基地の責任ある受入地域」言説への批判。
2)北部を犠牲にして良い論調がある。
3)嘉手納統合を安易に論じている。
4)辺野古案への反対運動・県民の反対の声を矮小化している。
5)鳩山の「フリップフロップ」に責任転嫁。ころころ意見を変えたのは仲井真のほうでしょ。
6)沖縄代表みたいに書いてあるが、これは吉川の見解なのか県庁「地域安全政策課」の方針なのか。
7)県庁内シンクタンクと言える地域安全政策課は沖縄に貢献して欲しい。
1)の見解はまさに「沖縄イニシアティヴ」とケント・カルダー色に彩られているということ。
2)が最も重要な点だと強調しておきたい。仲井真県政は、たまたま現在の辺野古案に対する態度だけで評価されているようだけれど。高江ヘリパッド建設の見直しをする姿勢が全く見られないことを常に念頭に置いて批評する必要がある。矛盾というよりも破綻なのだ。沖縄域内の南北差別構造との指摘は、なるほどそういう見方もあるかもしれない。沖縄の現実を肌身で理解しない国際関係論畑の若手研究員に書かせちゃったから、意図せずして露出してしまったのかもね。
5)「フリップフロップ」とは島ゾーリのことなのだ。と関係ないコメント。ペタペタのぺらっぺらってことなんだけど。ブッシュ息子の2期目の大統領選で、共和党が民主党候補を揶揄するために連呼したキャッチコピー。鳩山政権について似たような言論攻撃の真似をしたという感じが、ザワッと来るなぁ。
さて、屋上屋を追加する余地なしだが、蛇足的に指摘するとすれば
-普天間基地の返還は、まったくもって、「サラミ」のスライス程度の返還では、まったくない!なーにがサラミだ!サラミ・テクニックとは気にならない程度の量を掠め取る詐欺の手口に使うもの。否定するためならこのようなレトリックを使っていいという安易さが下品だと思う。メア発言と同じ意匠が施されているということだ。
-オリジナルのCSISサイトで、県民世論の数値を削除した点の訂正が注記されていない。それはどうなのよ。
-3)について、『沖縄タイムス』によれば、嘉手納統合案の論調について修正をするらしい(「嘉手納統合」県主任研究員の論文修正へ『沖縄タイムス』2012年4月14日。)。ところが記事を読むと「反省」したり「申し訳ない」と言っているのは又吉知事公室長だ。イニシアティヴは、著者である吉川さんではなく、なぜ又吉知事公室長なのか。そのようなものが研究の成果のように発表されたのか。吉川さんとしてはどのように受けとめているのか。吉川さんもシンクタンク研究員として、譲り渡してはいけないものがあるだろう。
大きな図式から、県庁当該課のなかでの著者の立場に至るまで、イニシアティヴ、つまり主体性がこれほどまでに危ういテクスト、ということだ。鳴り物入りの沖縄県庁の新組織は、名称を「日米安保課」に変更すべきだし、県民の公的な代表の仮面など付けずに、CSISの沖縄支局として堂々と活動したらいいんじゃないかなと思う。だから、マコーマック&乗松の7)の点については皮肉として読む以外には賛同できない。県庁・県知事を批判できる独立機関では全くないし、県庁内部にビルトインされた米国の政策執行代理店であると見るのが正確なところだろう。
【追記】そしてCSISが国防省の太平洋戦略のお先棒担ぎ機関に、というニュース。あいや〜。
CSIS Tasked by DoD to Conduct Independent Study of Force Posture Positions for Pacific Command Area, April 3, 2012.