投票直前のワシントンポスト紙、アナ・ファイフィールド記者の記事、「東京発」ではない現地レポートとなっていて注目されます。
アナ・ファイフィールド「沖縄で新しい知事を選択する構え、有権者の意識に米軍基地」『ワシントンポスト』2014年11月14日。
Anna Fifield, "As Okinawa prepares to pick new governor, U.S. military bases are on voters’ minds," Washington Post, November 14, 2014.
http://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/as-okinawa-prepares-to-pick-new-governor-us-military-bases-are-on-voters-minds/2014/11/14/ec190484-69ea-11e4-bafd-6598192a448d_story.html
(冒頭の写真キャプション)夕暮れどきに降ろされる日米の国旗に敬礼する米海兵隊員。沖縄県宜野湾市普天間飛行場近くのキャンプ・フォスターで11月14日撮影。(トオル・ヤマナカ/AFP/ゲッティ・イメージ)
那覇、日本発ーーー次期沖縄県知事と予想されている男は、自分は反米ではないと強調した。同盟に反対しているのですらない。じっさい、合州国のことが好きだと公言もしている。
だが、彼が本当に愛しているのは、なによりも、民主主義(デモクラシー)だ。
「民主主義的であるのはいいことです」。那覇は、日本本土の南に連なる亜熱帯の島の首都だ。その中心部にある自陣の選挙事務所で、翁長雄志はインタビューに答えた。「この日本で民主主義を尊重しないでおいて、中国のような国をどうやって批判できますか」。
まず第一に、沖縄の主要な選挙において米軍基地は中心的な課題である。そして、長く続いた政治を破るひとつの可能性として、日曜日、沖縄は米軍に対して妥協を許さない立場の候補者を選択した。
今回の場合、それは問題となっている海兵隊基地の移設に対するきっぱりとした反対の姿勢だった。
→「日本におけるアメリカの足場の移動」沖縄の米軍基地の地図(英語版)
世論調査は、保守派の元那覇市長である翁長が手堅くリードしていることを示した。彼の選挙公約の中核は、沖縄に新基地はいらない、新型機オスプレイもいらない、だった。うるさい航空機は、ここでは危険だと見なされている。
翁長は海兵隊普天間飛行場の移設計画を止めると公約している。沖縄本島の住宅密集地の真ん中にから、より離れた北部に移す計画のことだ。彼は移設ではなく閉鎖を求めている。
新しい飛行場が数年先に完成すれば、沖縄に駐留する海兵隊員の数は約1万8千人から約1万人に縮小され、太平洋のいずれか別の場所での配備が増強されることになる、ペンタゴン[米国防省]はそう言っている。
普天間は住宅地に囲まれ、滑走路のほんの数百ヤード先には小学校がある。2004年に付近の大学に墜落した米軍ヘリの事故は、昨日のことのように語られている。
翁長の基地移設への反対は、彼の保守系支援者層を巻き込みながら、広範な支持を勝ち得ることになった。
世論調査で第2位に付けているのが現職知事である。同じ保守派の仲間、仲井真弘多は、移設阻止という公約を破棄した。だが、世論調査には欠点もあると政治評論家は警告し、実際は接戦になるだろうと見ている。
仲井真が落選すれば、日本の首相である自民党総裁の安倍晋三には打撃となるだろう。現職側についた安倍は支持率の低下に喘いでいる。
また、辺野古と呼ばれる地域での新基地建設を早く進めるよう求めるワシントン[米政府]と安倍との関係にも波紋を及ぼすだろう。
安倍側は、翁長が選挙で勝ったとしても移設計画は継続する、最高裁に持ち込んででも対決すると誓っており、つまりその間も工事は継続するということだろう。国の安全保障事項は一介の県が決定できることではない、かれらはそう言っている。
確かに、翁長が辺野古の建設を食い止めることが出来るのかどうかについては、全く不透明である。二つの滑走路を備えるための埋立計画は仲井真が法定手続きを使って承認したもので、これをひっくり返すことは難しいだろう。
当地では一般的なアロハシャツ風の装いの翁長は、だが、東京[日本政府]が傲慢な態度で沖縄の望みを黙殺するのは賢明ではないと警鐘を鳴らす。
「沖縄はあまりにも苦しめられてきた。なぜこれ以上苦しまなければならないのか。私たちの主張は、負担は日本全体で分かち持って欲しいということだ」、彼はこう言って、0.6パーセントの県が日本の米軍基地の74パーセントを引き受けているのだと付け加えた。
普天間のすぐ北側には嘉手納がある。その巨大な空軍基地では、戦闘機が発着し、昼夜を問わず沖縄の空に轟音を響かせている。島の北部の広大な一帯は、海兵隊のジャングル戦闘訓練に提供されている。
日米安全保障同盟がそれほど重要というならば、それは日本全体で引き受けるべきだ、翁長はそう訴えた。
「沖縄で普天間について苦情を訴えると、合州国が好きか、それとも反米か、と聞かれる。日本政府に反対するのかと聞かれる」と翁長は語る。「こんな状態でどうやって暮らしていけというのか」。
沖縄は日本本土とも米国とも複雑な関係にある。かつて琉球と呼ばれた独立した王国は、1879年に日本に併合され、初めから二級市民のように扱われてきたと沖縄の人々は言う。
沖縄は後に、第二次世界大戦のなかでも残虐な戦場のひとつとなり、約30年間の米国占領がこれに続いた。沖縄は1972年に日本に返還されたが、巨大な軍事基地が残り、本島中部にいるとアメリカの一部のような気になる。
日常的に沖縄の人々は、島に巨大な軍事基地を抱えることによる事故、事件、騒音などの危険性を訴えている。
しかし、日本の中央政府は歴史的に、その反基地感情を抑制する道具として、財政援助を用いてきた。
そのキャンパスが普天間基地に隣接する沖縄国際大学で政治学を教える佐藤学教授は、翁長が勝ては「沖縄の人々の勝利となるだろう」と語った。
「戦後の日本政府が押し付けた構造をひっくり返すことになる」。
沖縄県財政における商業収入は基地からの収入をはるかに凌駕していることを翁長は強調している。東京が今回も再び同じ騙しの手口反撃に出ることを警戒している。
沖縄の人々は、現在は問題として浮上していない嘉手納やその他の基地についても反対論の声が上がり始めるだろう、と彼は言った。
抗議する人々は辺野古に現在ある海兵隊駐屯地の正面に陣取った。それは計画されている巨大な移設からすればごく小さな一歩である。人々の翁長への期待は高まっている。
「日本政府が沖縄の人々の望みを無視し続けるならば、この島々にある全ての米軍基地の閉鎖を要求することになる」、沖縄平和運動センター議長で抗議現場の常連メンバーである山城博治は、そう語った。
(この報告はユキ・オダの協力を得て執筆された。)
アナ・ファイフィールドは本紙東京支局長で、日本と韓国・朝鮮を担当している。それ以前はワシントンDC、ソウル、シドニー、ロンドンと、中東域からフィナンシャル・タイムズ紙のレポーターを勤めた。
(翻訳:合意してないプロジェクト)