ジョン・ミッチェルさんの高江取材記事が出ていましたので、翻訳してみました。末尾にメモも書いてみます。
ジョン・ミッチェル「道路封鎖、記者への妨害、沖縄の着陸帯をめぐる怒りの炎」『ジャパンタイムズ』、2016年8月24日。
[原文]Jon Mitchell, "Roads blocked, press barred as tempers flare over landing pads in Okinawa,"
The Japan Times, August 24, 2016.
http://www.japantimes.co.jp/news/2016/08/24/national/roads-blocked-press-barred-tempers-flare-landing-pads-okinawa/
<写真2点のキャプション>
「沖縄県東村高江で、道路をブロックする抗議者たち。掲げている日本語の標示には「やんばるまもれ」と書いてある。」撮影:ジョン・ミッチェル
「警察が何カ所かで強行している道路封鎖のひとつ、沖縄県東村高江。抗議者を遠ざける目的。」撮影:ジョン・ミッチェル
【沖縄県東村】新たな米軍の着陸帯予定地で沖縄で人びとの怒りが高まっている。住民や記者らが語るのは、計画を推し進める日本政府当局の強圧的な手段に対する批判だ。
先月、米軍は沖縄にある北部訓練場のジャングル約4000ヘクタールを日本の管理下に返還する準備をしていると発表した。発表のタイミングは、当地において引き続くアメリカ人の犯罪の後、地元の怒りを鎮めようという意図があるとの見方が拡がった。この犯罪のなかには、元海兵隊員を被疑者とする4月の女性殺人事件も含まれる。
この発表からひと月が経過して、しかし、沖縄の怒りはかつて無いほど燃え上がっている。
予定される土地の返還に東京とワシントン[日米両政府]が付け足した条件のほうに、住民は怒っているのだ。高江という、東村内にある人口約150名の居住区に新しく6基のヘリパッドを建設するというのがその条件である。直径75メートルになるヘリパッドのうち、2基はすでに完成した。しかし、村民は残るヘリパッドの建設を阻止すると決意しており、オスプレイを含む航空機の低空飛行と環境破壊の危険性がその理由として挙げられている。この一帯は、170種以上と言われる絶滅危惧種の棲息地でもある。
7月に政府が建設作業を再開してからというもの、抗議者らは高江の道路に集まり、機動隊警察と激しく衝突している。警察による道路封鎖で、怒りの声を上げる抗議者、農家、観光客らの数キロに及ぶ交通渋滞が何時間も続いた。今週明けには、記者らが警察によって包囲拘束され、抗議行動の現場を直に報道させなかったことで、弁護士やマスコミ労組から報道の自由の侵害だと厳しく批判された。
「ここはまるで戒厳令下のようです」、沖縄の抗議者の一人、宜野座映子は言う。「警察の数がとても多く、彼等が頻繁に暴力を振るっています」。
抗議者たちは道に座り込み、入口ゲート前に車を駐車して、ヘリパッド工事現場に資材を運び込むトラックを阻止しようとする。警察がこれを排除する際に、抗議者たちには負傷者も出ている。
月曜日には、衝突の後、2名の抗議者が病院で手当を受けた。救急車で現場から運び出された一人は、87歳になる平和活動家にして、第二次大戦の生存者でもある島袋文子だ。彼女は手を数針縫わなければならなかった。翌日には高江の抗議に戻るのを、誰も止めることは出来なかった。
先月の発表時に米軍は、北部訓練場は「オスプレイやその他の航空関連機器 (aerial platforms) の作戦 (operation) と安全基準を遵守して」使用されると約束した。
しかし、高江の地に暮らす住民は、そのような約束には懐疑的だ。
「オスプレイは夜も我が家の上を低空飛行して、子供が眠れません。新しいヘリパッドが出来たら、事態は悪くなるだけでしょう」と、住民の安次嶺雪音は言う。軍用機の低空飛行による騒音は近年ますます酷くなっていると語る彼女は、隣村への移動を余儀なくされているという。
防衛省の動きは、地元の怒りをさらに追加するだけだった。春に起こった米国人による犯罪がもたらした衝迫の後に、政府は住民を安心させるためとして沖縄に数十名の警備要員派遣を約束した。だが、その警備要員らは事件現場一帯に派遣されるのではなく、高江に、新しいヘリパッドの建設現場の警備目的で送り込まれてしまった。
【翻訳後のメモ】
ジョン・ミッチェルによる高江報道、今回は冒頭から"public anger"と書き始めている。辞書などを引くと「国民的怒り」と訳されているようだ。「公憤」という語が日本語にはあるが、これとはまた少々異なるニュアンスがあるだろう。人びとに広く共有されている怒り、という意味と捉え、「国民」というのはいやなので、「人びとの怒り」と訳してみた。ミッチェルがこのように書き始めたのは、「みんな反対しているのだ」という、例えば次のような背景に裏打ちされているからだと思う。
●着陸帯反対、高江80% 賛成回答はゼロ 本紙が2区住民アンケート『琉球新報』2016年8月3日 05:04。
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-328340.html
沖縄県内の新聞、タイムスと新報はかなり以前から「反対派」という語を使わなくなった。だが文脈を理解しないまま慌てて高江に着目し始めた内地の報道関係者の記事などで久しぶりに「反対派」という言葉を目にし、強烈な違和感を感じる。本記事でも、少し前に発表されたジョン・レットマンの高江の記事でも、"protesters"という言葉が選ばれているが、これを「反対派」と訳してしまっては、間違いだろう。
高江blogに出ているレットマン記事の訳文を参考に、こちらでも「抗議者」という訳語とした。少々堅苦しい言葉だと思うけれど。
●Jon Letman "Fighting To Save A Remote Okinawan Forest: As helipad construction stokes tensions, a new wave of demonstrations flares up in Okinawa’s remote northern forests,"
Honolulu Civil Beat August 12, 2016.
http://www.civilbeat.org/2016/08/fighting-to-save-a-remote-okinawan-forest/
「これはまるで戒厳令下だ」。高江の現状が口々にそのように伝えられている。「まるで・・・ようだ」とはむしろ正確さを意識するあまり表現が自粛しているのではないか。法的根拠と手続きを経ない警察の暴力行使は、戒厳令そのものだ。沖縄北部の小村で、日本政府が戒厳令を敷いている。とてつもない危機にある沖縄に、パブリック・アンガーに駆られて、いっそう多くの人びとが足を運ばなければならないときなのに、みんな何をしているのだろうか、と思う。
この危機を海外に伝えるための不可欠なトピックのひとつが、報道の自由の剥奪だ。報道が拘束されるのは、世界基準に照らしてとんでもない独裁政権下だということを英語で伝えたのは重要だ。琉球新報社説の英語版と併せて広く伝えられるべき。何しろ、日本の報道の自由についての危機的状況が、国連で特別報告者によって報告されたばかりだ。国際社会からの意見に耳を傾けない国の姿勢は、過去に歩んだ帝国日本の道程を彷彿させる。過小に評価する余地はない。
タイムスと新報の報道はそれぞれ以下。
●沖縄タイムス記者も拘束 高江で取材中、機動隊聞き入れず『沖縄タイムス』2016年8月21日 14:28。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/58488
●機動隊が記者排除し閉じ込め 東村高江 弁護士「報道の自由侵害」『琉球新報』2016年8月21日 05:04。
http://ryukyushimpo.jp/photo/entry-340617.html
●機動隊の強制排除、根拠説明なし 羽交い締め、記者の抗議聞かず『琉球新報』2016年8月21日 05:03。
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-340625.html
●高江の取材妨害を批判 信濃毎日、東京新聞 社説などで指摘『琉球新報』2016年8月24日 11:20。
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-343359.html
●<社説>高江で記者排除 報道の自由侵害を許さない『琉球新報』2016年8月22日 06:02。
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-341336.html
● "Editorial: Removal of reporters in Takae violates freedom of the press,"
Ryukyu Shimpo, August 22, 2016.
http://english.ryukyushimpo.jp/2016/08/25/25637/
また記事は、マスコミ労組が抗議したことに言及している。労働組合は組合加入率が減少傾向にあることだけを持って弱体化していると一般的に見なされている。組合関係者自身もそのように思い込んでいるフシもある。だが、大規模人数の動員だけが組合のチカラではない。労働組合という継続的な活動を通して、保障されているときには見失いがちな権利とは何か、どのようなときに侵害されていると見なすのか、その人文知を組織で保存継承しているのだ。そして、侵害されたと判った時には素早く対応する機能を備えた、法的にも根拠付けられた組織こそが労働組合だ。そのような機関としてのチカラが衰えていることのほうに危機を感知しよう。
アメリカでアジア太平洋系労組APALAが、辺野古と併せて高江についても反対声明に採り入れていることを想起しよう。
あらゆる労働組合単組は、高江について、自らの権利と結び付けた抗議声明を上げて沖縄の人びとの側に立つことを表明すべき時ではないか。建設業界の組合は、手続きを踏まない不正義の公共事業労働を拒否すると主張する時ではないか。国公労は公務員を守るため、これまで以上に継続的に、人びとの目に見える形で行動を起こして欲しい。
辺野古と高江で繰り返されている暴力は、暴力を行使している側をも傷付け蝕んでいる。民間警備員は、同業者ユニオンからの支援を仰ぎ、自分たちの組合を真剣に考える時だと思う。そして警察も機動隊も「先進国」並に組合を結成すべきだ。あなたたちの人権が侵害されているのだ。
マスコミ労組と新聞労連の声明の全文は以下で読むことが出来る。
●沖縄マスコミ労組が声明 : 東村高江のヘリパッド強行建設と報道の自由侵害に抗議『レイバーネット日本』2016-08-24 23:02:59。
http://www.labornetjp.org/news/2016/0824seimei
●Kyodo, "Okinawa media union protests forcible removal of reporters,"
Japan Times, Augusut 23, 2016.
http://www.japantimes.co.jp/news/2016/08/23/national/okinawa-media-union-protests-forcible-removal-reporters/#.V8RjNJPhCRu
ところで、今回のミッチェル高江報道記事は在日米軍が行った発表と併行して事態を読むようにと促すものになっている。具体的な「先月の発表」のことについて報道された記事として、まず以下を参照されたい。
●在日米軍司令部「4千ヘクタール返還へ準備」 沖縄・北部訓練場『沖縄タイムス』2016年7月30日 07:00。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/54991
ここでは、ロイター通信による配信を、平安名純代記者が解題しつつ次のようにまとめている。
在日米軍司令部は29日、北部訓練場の返還計画について、約4千ヘクタールの部分返還の準備が進められているのを確認したと発表した。返還は、同訓練場内での6カ所のヘリコプター着陸帯と接続道路の移設が条件と強調している。
ロイター通信は同日、在日米軍副司令官のシロッティ海兵隊少将が「訓練を他の既存区域内に統合するため、いくつかのヘリコプター着陸地帯を建設することで、約4千ヘクタールの土地返還が可能になったとのコメントを発表した」と報じるとともに、「この計画が実行されると、米政府管理下にある沖縄県内の土地は17%削減される」と利点を強調した。
在沖海兵隊のトップ、ニコルソン中将は先月18日、県民大会の前日に応じた同通信社とのインタビューで、「来年初めに北部訓練場の一部を返還する用意がある」と述べ、ヘリパッド移設は着工後、約2カ月で完成するとの見解を示していた。
●<高江ヘリパッド>来春までに完成へ 日米の狙いは【深掘り】『沖縄タイムス』2016年7月19日 10:04。
こちらは、それより少し前のタイムスの論評。日本政府が来年3月までに完成との方針を掲げているとした上で、その背景として次のように続けている。
日本政府と足並みをそろえるように、米側からもヘリパッド建設に向けた踏み込んだ発言が出始めた。6月18日、ニコルソン米四軍調整官はロイター通信のインタビューで北部訓練場の一部を「来年初めに日本へ返還する用意がある」と発信した。元海兵隊員で軍属の男による暴行殺人事件に抗議する県民大会の前日。反米感情の高まりを背景に、「負担軽減」をアピールする狙いがあった。
ということなので、当然、6月18日のロイターの配信記事を探して読んでみる。
●沖縄の北部訓練場、来年初めに返還の用意=米海兵隊司令官『ロイター』 2016年 06月 18日 22:58 JST。
http://jp.reuters.com/article/okinawa-base-idJPKCN0Z40H1
ニコルソン中将は、在沖縄米海兵隊の司令部キャンプ・フォスターで取材に応じ「日米間で協議している」と説明。「今年下半期に動きがあると期待している」と語り、ヘリパッド移設工事が始まる可能性に言及した。着工すれば、およそ2カ月で完成する見込みだという。同中将は、「1972年(の沖縄の日本復帰)以来、最大の返還になる」と強調した。
ロイターのWebサイトでは、普天間飛行場のでっかい写真が挿入されていて意味不明なのだが、それよりも意味ぃ〜なのは、ニコルソンという四軍調整官は工事再開や完成を予言するチカラでもあるのかな、ということだ。日本政府とグルになった予言詐欺でもなければ、すごい能力の持ち主ってことになるよね。ロイターはその予言をそのまま報道しちゃうのか。それよりも、どうして、着工から2ヶ月で完成するよう見込まないといけなかったのか。自社独自インタビューなら、ロイターはそのようにツッコミを入れるべきだったところだろう。米国議会の予算審議に向けた中間評価の締切が迫っているからなのか、締切直前のやっつけ仕事なのか、と。その米軍のプレッシャーをチャンスとばかりに戒厳令を敷いて、人の首を絞め突き落とし閉じ込め怪我を負わせ自然林を無許可伐採しているのが日本政府ということになる。つまらぬ予算確保のアピール(失敬かな)のために、独裁政権を手先にして人と森が潰されているが、米国市民社会はそれでよいのか、となぜ問わないのか。
ともかく、その6.18ニコルソン発言を引用しながら、在日米軍副司令官チャールズ・シロッティ海兵隊少将なる人物が7.29記者会見した。それを、再びロイターが報道配信したのを、沖縄タイムスが報道した、というのが、先に挙げた7月30日のタイムス記事ということになる。7月29日のロイター報道を探して読んで見る。
●沖縄の北部訓練場、部分返還へ準備行っている=在日米軍『ロイター』2016年 07月 29日 16:44 JST。
http://jp.reuters.com/article/okinawa-base-idJPKCN1090PE
またしても、普天間飛行場の写真が挿画として使われている。えー、ロイターよ。。。
この会見発表をロイター配信ではないソースから報道した社があった。「シロッティ」「北部訓練場」で検索してヒットしたのは産経新聞。末尾に「共同」とあるので、共同通信社の配信なのだろうが、記事の文字数も内容も、ロイターの上記のWebと比べても多い。ロイター日本語版の非常に簡潔なWeb報道では言及されていないのが、ニコルソン発言部分だ。さて、これをどう考えればよいのか。
●沖縄・北部訓練場の部分返還を準備 在日米軍が確認『産経新聞』2016.7.30 12:42。
http://www.sankei.com/politics/news/160730/plt1607300017-n1.html
在沖縄米軍トップのローレンス・ニコルソン沖縄地域調整官は声明で「沖縄の人々の心情を尊重し、米軍の専有面積を縮小しなければならない」と強調。返還による部隊運用への支障はなく「新型輸送機オスプレイや他の航空機の安全基準に基づき訓練場を引き続き使用する」と説明した。(共同)
回り道をしてしまった。ともかく、7月29日に行われたというこの記者会見、出席したのはいったい何社だったのか判らないけれど、在日米軍司令部(USFJ)はFacebookのタイムラインにわざわざ資料を上げてくれているので、これを通して、発表内用を知ることが出来る。FBはアカウント持ってないと見られない閉鎖的なものなのでここにはリンクしないけど勝手に探してね。ご丁寧にも、USFJは、日本語訳文を「参考文」と注意書きして付けている。
ミッチェル記事は、英文で書かれているので、当然、英文の発表からの引用となっているわけで、ここはひとつソースに照らして、そのUSFJのFB文書から、引用された箇所の前後も併せて以下に転載する。ミッチェル記事が引用した部分は判りやすいように文字色を変えておく。
“This decreased training area on Okinawa will not deteriorate our commitment or our ability towards working with the Government of Japan and our partners in the Japan Self Defense Force in mutual defense of this country,” said Lt. Gen. Lawrence D. Nicholson, commanding general of III Marine Expeditionary Force and Marine Forces Japan. “Our capabilities to operate in the Pacific will remain consistent, even within a smaller space. We will continue to use this area respectfully within operations and safety requirements for Osprey and other aerial platforms. We have plans for many more SACO agreement and other returns to be implemented in coming years, because we are respectful of the feelings of Okinawans that our footprint must be reduced.”
第3海兵遠征軍兼在日米海兵隊司令官ローレンス D. ニコルソン海兵隊中将は「沖縄における訓練場の削減は日本の相互防衛において我々が日本政府およびパートナーである自衛隊と共に従事していくという確約と能力を低下させるものではありません。」と述べました。「我々の太平洋での運用能力は縮小された地域内においても一定に維持されます。我々はこの訓練場をオスプレイや他の航空機の運用、安全基準を遵守し継続して使用していきます。我々は米軍の足跡が削減されるべきであるという沖縄の方々のお気持ちを尊重し、数年以内に更に多くのSACO合意事項や他の返還を実施する計画があります。」
どうでしょう。いろいろ気になりませんか。気になってムズムズしませんか。「お気持ち」という訳語とか、"Okinawan"という語とか、作文した人も翻訳した人も、いろんな影響に曝されているのだなあと溜息が出てしまうが、それはさておき。
ミッチェル記事を訳出するに当たって、この文章を見たので、二つの気になる語は原語を添えたという次第。具体的には以下の箇所。
「オスプレイやその他の航空関連機器 (
aerial platforms) の作戦 (
operation) と安全基準を遵守して」
ひとつには、海兵隊が遵守(respectfully)するのは、自分たちの作戦と自分たちの安全基準であって、沖縄をリスペクトしているのでは全くない。そう読むならば、「オペレーション」という語は「運用」でも間違いではないだろうけれど、軍隊なんだから「作戦」のほうがその内実と意味を的確に示すだろう。このニコルソン発言は「これまでも、これからも、作戦に従って自前の基準でやらせてもらうよ」、と言っているのに過ぎない。その後に「米軍の足跡を削減すべしというオキナワンの気持ちを尊重(respectful)して」と続くが、沖縄では例えば県議会は「海兵隊の撤退」を決議した。こうした主張に真摯に耳を傾けず、未だに「削減」だと主張を薄め、面積だけの問題にすり替える態度を、私たちはリスペクトとは見なさない。
そして、オスプレイの後に続く「エアリエル・プラットフォーム」という語。これを「他の航空機」と訳してしまうと、これも間違いではないが、「オスプレイや、これまでの航空機」のことだと読んでしまうのではないか。だが、多分、そうではない。この奇妙な軍事用語は、想像するに、無人航空機の軍事利用本格化とともに頻出しているのではないだろうか。エアクラフトという語の範疇に納まりきれない技術を大枠で言い表そうとする語として捉える必要がある。「もちろんドローンとか必要な機材も使うからね」、と言っているように読めるのだ。
さらに、前後の文脈を併せて引用しておいたのは、「自衛隊と共に」という語が出現するからだ。北部訓練場の自衛隊視察は、6月の新聞報道で明るみになり問題視されているところだった。座り込みの人びとの多くが、自衛官の訓練を目撃してもいる。ところが驚き呆れることに、米軍ではもはや自衛隊の共同使用は当然の事実として取り扱われている。在日米軍のサイトは、6.18ニコルソン発言、7.29シロッティ会見に符丁するように、北部訓練場の一部返還にフォーカスしたページを作成し、次のように説明している(下線部と訳語は引用者による)。
The Northern Training Area, also known as Camp Gonsalves, is a 7,500 hectare stretch of largely undeveloped jungle land in the northern part of Okinawa prefecture, and is currently used by the U.S. military and the JSDF for jungle training.(北部訓練場は、キャンプ・ゴンサルベスの名でも知られ、7500ヘクタールの大半が未開発のジャングルの地で、沖縄県北部に位置し、現在、米軍と日本の自衛隊がジャングル訓練に使用しています。)
自衛隊の問題は、ミッチェルのタイムスへの寄稿によって明らかとなった英軍の演習の問題とも、併せて考えなければならない。なぜなら北部訓練場こそは、すでに2008年に、イスラエル、ドイツ、オランダ軍と自衛隊の視察が暴露されている場所なのだから。
●陸自特殊部隊が視察 米軍ジャングル戦闘訓練 将来は共同使用も?『琉球新報』2016年6月10日 12:00。
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-295511.html
●ジョン・ミッチェル特約記者「英軍兵が沖縄の米軍基地で訓練 本紙請求に英政府開示」『沖縄タイムス』2016年7月18日 11:11。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/48541
●Jon Mitchell, "Training of British troops on Okinawa bases may violate Japan-U.S. Security Treaty,"
Japan Times, August 10, 2016.
http://www.japantimes.co.jp/community/2016/08/10/issues/training-british-troops-okinawa-bases-may-violate-japan-u-s-security-treaty/#.V8Rca5PhCRs
(2008年の報道は例えば以下)
●米独イスラエル軍、沖縄でのジャングル戦闘訓練を検討『AFP』2008年07月02日 09:50。
http://www.afpbb.com/articles/-/2412817?pid=3095981
●社説・外国軍の訓練 演習のメッカなどご免だ『琉球新報』2008年7月2日 09:37
http://ryukyushimpo.jp/editorial/prentry-133743.html
北部訓練場で起こっていることは、日本政府と米海兵隊の共謀であり、他では実現できないやりたい放題の訓練場を確保しておきたいから、というご都合主義同士のデンジェラス・リエゾンだ。20年の失敗と失政の末に、こんな残酷な状況を沖縄にもたらしている。いっぽう海兵隊は、プランBと言わんばかりにオーストラリアのダーウィン、グアムと北マリアナ諸島にも訓練場を確保しようと躍起だ。海兵隊では、実弾を使用できる上陸訓練場の確保というのが、ひとつの課題になっているからだ。もちろんそれぞれの土地で、厳しい抗議者たちに直面している。米軍ではもはや実際の戦闘ではなく、「実戦さながらの訓練」「レディネス」で予算を遣い尽くしして資本の要求に答えることが目的と化しているとすら見える。そして米軍は状況が変われば、幼児が興味を失ったおもちゃを放ったらかしにするように基地を放棄し、掃除や後片付けなどしないだろうし、そうなれば(その時点ですでに合同演習で利用を始めている)自衛隊が演習に(引き続き)流用するということになるだろう。
以上、ひとつの記事からご飯おかわり三杯いける、もとい、多くの引き出しが開いていくようなミッチェルの高江報道だった。引き続き注視したい。そして、どの引き出しを開けてみても、この暴力・謀略を許すことなどできない。引き続き、多くの人びとに高江に辺野古に向かって欲しい。伊江島にも向かって欲しい。公憤の炎を胸に宿す非暴力直接行動こそがリスペクトされるような空間にし、訓練場を、沖縄を、私たちの手で変えて行きましょう。