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20160908

ジョン・ミッチェル高江報道その2「人権侵害にも知らぬ存ぜぬの米国」

 ジョン・ミッチェルさん、2016年高江報道の第2弾です。
 日本には「足を洗う」という言い方がありますが、タイトルは、米国は自分たちだけさっさと手を洗って知らん顔、という意味だと考えてこんな風に訳してみました。米国の「我関せず」という態度こそが、かれらが深く関わっていることの証左であると、具体的な事例を挙げながら説明しています。
 オリバー・ノースとは、イラン・コントラ事件に関与した人物の名前。枯れ葉剤問題や英国軍の演習、海兵隊員の研修など、これまでの取材を結び付けつつ、歴史に照らしつつ、米国市民の側から、高江の問題を見るよう促す内容となっています。
 高江を思う多くの米国の友人たちに読んでもらえるよう願います。

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ジョン・ミッチェル「沖縄ヘリパッド予定地の人権侵害に知らぬ存ぜぬの米国」『ジャパン・タイムズ』2016年8月31日。
(原文)Jon Mitchell, “U.S. Washes Hands of Rights Violations at Okinawa Helipad Site,” Japan Times, August 31, 2016.
http://www.japantimes.co.jp/community/2016/08/31/issues/u-s-washes-hands-of-rights-violations-at-okinawa-helipad-site/#.V9BKy5PhCRs

[写真キャプション]
YouTube動画「高江で日本の機動隊に対峙する村の人びと。撮影:ジョン・ミッチェル」
写真1「ヘヴィ・プレゼンス(駐留軍の重圧):沖縄北部、ヘリパッド建設が進む米海兵隊北部訓練場、フェンス外側に立つ民間警備員の背後で、フェンスの内側から米軍兵士が見ている。撮影:ジョン・ミッチェル」
写真2「オーヴァーキル(過剰動員):ヘリパッド建設地を警備するため抗議行動に投入された日本本土からの数百名規模の機動隊員。撮影:ジョン・ミッチェル」


 米国務省は、国外での人権促進の任務も司る連邦機関であるが、沖縄北部で米海兵隊のヘリパッド新設を強行する東京[日本政府]の強引な手法を批判することを拒んだ。
 7月以降、日本政府は東村高江区に警察の大規模動員作戦を執行し、少なくとも5名の抗議行動参加者が病院で治療を受け、報道の自由を侵害し、翁長雄志知事や、マスコミ労組、地元住民からの非難を浴びた。
 負傷者と報道記者の排除についてコメントを求めた『ジャパン・タイムズ』紙に対し、国務省は、日本政府と米国防省に問い合わせるようにとした。アナ・リッチー=アレン東アジア・太平洋局担当報道官の回答は、質疑とは無関係の定型文言によるものだった。
 同様に、米海兵隊のジョージ・マッカーサー渉外担当官も、権利侵害の疑いに関するコメント依頼を却下した。在沖海兵隊もまた、ヘリパッド建設について『ジャパン・タイムズ』紙によるインタビュー依頼を拒否した。10日前の依頼であったが、マッカーサーの却下理由には「ショート・フューズ」[気が短い]だとあった。
 8月25日、翁長県知事は、日本本土から数百人の機動隊を投入した日本政府を「過剰だ」と批判した。また、日本新聞労働組合連合は現場で報道する記者に対する妨害を「国による報道の自由の重大な侵害」と指摘した。
 高江に隣接している米海兵隊北部訓練場は、キャンプ・ゴンサルベスの名でも知られている。7800ヘクタール(1万9千エーカー)という広大なジャングル戦闘訓練センターは、1957年に設置された。オリバー・ノースが指揮を執ったこともあり、有毒除草剤のエージェント・オレンジの試験現場となったという退役兵の証言もある、そのような訓練場である。
 近い将来、ワシントンはこの基地用地の半分を返還するよう計画しているが、それは6基の新しいヘリパッドを高江周辺に建設するという条件が満たされた場合に限られる。村民の反対にも拘わらず、75メートル大の着陸帯のうち2基が完成し、今や、ヘリコプターとオスプレイを用いた昼夜を問わない海兵隊の訓練飛行に使用されている。6月に沖縄防衛局は、高江住民が一晩に十数回もの航空機騒音に曝されていたことを記録していた。
 高江のヘリパッド建設は、沖縄島全体で米海兵隊を統合するという東京[日本政府]による計画のなかの一部分に過ぎない。
 二つの滑走路と深い軍港を名護市キャンプ・シュワブに建設する計画のほうは、現在、国と県との間で行われる厳しい法廷闘争に焦点化されている。ワシントン[米国政府]は、キャンプ・シュワブ付近に新基地が完成すれば、宜野湾市にあって老朽化した普天間飛行場から海兵隊を移駐させる計画だ。しかし、日本政府は法廷闘争が長引くことを予想していると見て、普天間の施設改修に数億円の費用がかかるだろうとの認識を示した。
 さらに沖縄で、日本政府は、オスプレイとF-35の配備に備え、沖縄北部近海の小島、伊江島の米海兵隊補助飛行場の施設改修に着手した。
 「日本政府はいつも沖縄の軍事的負担を軽減すると言うが、現実は正反対だ」、伊江島住民で地元の平和ミュージアムを運営するメンバーでもある大畑豊は言う。大畑は、島の基地建設と、最近あった海兵隊による民間港利用についても語った。
 大畑によれば「伊江島議会も地元区も、新しい軍用施設に反対の決議をした」「だが、政府は私たちが何を言おうと声を聞き入れないのです」。
ワシントンと東京は、高江、名護、普天間、伊江島の建設事業が、最終的には島のその他の土地返還を可能にするものであると強調している。
 だが、多くの沖縄の人びとは、米海兵隊によるこの島の使用はこの先数年で拡大するだろうと見ている。米海兵隊が英国海兵隊の2名の中尉をキャンプ・シュワブ、キャンプ・ハンセン、沖縄中部で訓練していたことが最近明らかになり、懸念は高まる一方だ。このプログラムは、日本政府は現在調査中というが、長期に及ぶ日米安保条約の解釈に違反している。在日米軍基地における第三国の訓練は認められていないのである。
 4月に元海兵隊員を容疑者とする地元女性殺害事件があり、新人海兵隊員向けの研修が島の住民と政治指導者を毀損する内容だったことも判明し、米海兵隊に対する沖縄の怒りは沸点に達したままである。今週火曜日、読谷村の女性宅に押し入ろうとした容疑で、米海兵隊の軍曹が逮捕された。5月には沖縄県議会で、沖縄からの海兵隊基地の全撤去という、前例のない決議が通過した。
 6月、米国駐日大使キャロライン・ケネディは、海兵隊に対する地元の怒りを直接経験している。第71回目を迎える沖縄戦終結祈念式典訪問の際、ケネディは、キャンプ・シュワブの地元交流イベントに参加した。退出する間際、彼女の車列は抗議行動者たちに阻止され、警察の強制排除によらねば出発が出来ないという事態となった。
 この事件に対するコメントを求められた那覇の米国領事館は、『ジャパン・タイムス』紙に対して、「私たちは一貫して個人の表現の自由と平和的な集会を支持するものですが、施設への出入りを妨害したり日本の法に違反する者があれば、日本政府の法執行機関が必要な措置を取るよう求めます」と回答した。
 ケネディのキャンプ・シュワブ訪問という判断は、米国は、普天間飛行場移設のため隣接する湾を埋め立てるという東京の決定を支持するというサインを送る狙いがあったことは明らかである。だが、訪問の場所とタイミングは、多くの沖縄の人びとに、よく言っても無神経、悪くすると扇動的との印象を残した。
 ケネディ訪問の三ヶ月前、キャンプ・シュワブ駐留の水兵ジャスティン・カステヤノスが、那覇のホテルで女性をレイプし逮捕された。ケネディ訪問は、その上さらに、沖縄戦の生存者の傷口に塩を擦りつけたのだ。キャンプ・シュワブは、かつての大浦崎収容所があった場所であり、戦争の後で沖縄の人びとが収容され、約300名の民間人の遺骨が駐屯地の地中に埋まったまま、家族も遺骨収集組織も近づくことを許されないままの場所なのだ。
 在沖海兵隊に対する人びとの怒りの高まりを受けて、米軍は最近、ネット上の広報活動で幻惑しようという攻撃手段に出た。6月、在日米軍は、ソーシャル・メディア上で「今週の事実」(Fact of the Week) キャンペーンを立ち上げた。その最初の投稿は、在日米軍の4分の3が沖縄に駐留しているという日本政府の統計に真っ向から矛盾するものだった。在日米軍曰く、本当の数値は39%だというのである。
 在日米軍の主張は、かれらが占有している面積ではなく、駐留施設の数に基づいていた。これは翁長知事を驚愕させ、「事実を操作する意図がある」と表した。ネット上の批評はさらに厳しかった。在日米軍の投稿は、いわゆる「ネット・ウヨク」と呼ばれる人びと、匿名の極右のネットユーザーによって広く共有されている間違った噂みたいなものと見なされた。

 ジョン・ミッチェルは、沖縄における米軍環境汚染の調査で、日本外国特派員協会「報道の自由推進賞」の「報道功労賞」を授与された。ご意見ご提案は次までお寄せ下さい。community@japantimes.co.jp

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